藻バイオ燃料の希望と課題

藻で車が走る?何が技術的な課題なのか?

藻バイオマスとは?

地球温暖化の進行に伴って、バイオ燃料が世界中で注目されている。これまで第2世代のバイオ燃料として、トウモロコシやサトウキビなどの植物由来の原料が利用されてきたが、バイオ燃料の拡大に伴って食料生産と競合しない新たなバイオマス原料の必要性が増している。近年、次世代のバイオ燃料として、微細藻類が注目されている。微細藻類は植物と比較して成長が10倍以上と早く、かつ食料生産と競合せず、洋上での生産も可能なため、第2世代のバイオ燃料を大きく上回る生産効率を有するとされる。これまでに多くの研究者によって緑藻類によるバイオ燃料生産が試みられており、近年ではレースウェイポンドや大規模リアクターなどによる実規模プラントも見られるようになっている。

バイオマス生産プロセスについて

微細藻類によるバイオ燃料生産プロセスは(1)培養、(2)回収、(3)精製の3段階に大分される。培養の課題として、生産コストの他、他生物が培養液に進入し、微細藻類を捕食することで微細藻類の生産性を著しく減少する「コンタミネーション」が挙げられる。大規模培養において無菌的な環境を維持することは不可能であり、実用にあたっては開放系での培養を行わざるを得ない一方で、通常の開放系培養ではコンタミネーションは避けられず、単細胞緑藻類のクロレラを屋外で培養した際には、培養3~4日間でコンタミネーションにより藻類の増殖阻害が引き起こされた例も報告されている。微細藻類による燃料生産を実用化するにあたっては、屋外培養でのコンタミネーションの制御は避けては通れない重要な課題といえる。
我々の研究グループでは、コンタミネーションの制御を目的として、酸性条件下においても高い増殖速度を持ち、油脂含有率が高い微細藻類「P.ellipsoidea種」を単離し、コンタミネーションを許容するような環境での培養に成功している。P.ellipsoidea種は単細胞微細緑藻類であり、細胞内への油脂蓄積能力にすぐれ、最大油脂含有量は 60%に達する性質を有している。また、増殖速度はクロレラの 70%程度であるが、高油脂生産能力とコンタミネーションを抑制した培養が行えることから、高効率・高生産性を可能とする藻類として期待される。

藻バイオマスを培養液から回収する!

回収プロセスにおいては、微細藻類は培養液中に薄く存在することから、後段の精製プロセスの効率を向上するために、培養液中の微細藻類の濃縮プロセスが不可欠となる。微細藻類の濃縮・回収プロセスでは、液体(培養液)から固体(微細藻類)を分離するプロセスが必要となることから、固液分離プロセスである「沈殿」もしくは「ろ過」が選択されることが多い。
粒子の沈殿はストークスの法則に従う。ストークスの法則では、沈降速度は重力と粒子の密度に比例し、粒径の2乗に比例することが理論上明らかになっている。よって、効率的に沈殿・濃縮するためには、微細藻類の粒径を大きくするか、重力加速度の増大が不可欠となる。粒径を大きくするプロセスとして、凝集・浮上分離がよく利用されている。凝集剤を加えて微細藻類をフロック化する手法であり、比較的安価かつ大規模に回収したい場合に有効とされる。一方で、濃縮した微細藻類中に凝集剤が残存することから、回収した藻類の価値が低下し、後段の精製プロセスに影響を及ぼすことが危惧されている。さらには,回収した微細藻類の濃縮倍率(濃縮後濃度/濃縮前濃度)が下記に示す遠心分離やろ過と比較して低いことが課題としてあげられる。
重力加速度を増加させるための手法として遠心分離が利用されている。遠心分離は遠心力により重力加速度を増加するものであり、バッチ式の装置だけでなく、連続式の装置も様々に開発・利用されている。非常に高い濃縮倍率を達成でき、かつ化学薬品の添加が必要ないことから、回収した微細藻類を食品に利用する場合などによく用いられている。ただし、遠心分離装置は非常に大きな動力を必要とする他、装置の大型化に限界があるため、実用にあたっては何台もの遠心分離機を設置する必要がある。さらには、連続遠心機であっても濃縮した微細藻類の回収時には、装置の分解や回収作業に多くの人手とコストが必要となり、著しいコスト低減は難しいとされる。
ろ過プロセスは、ザルのように微細藻類を濾し取ることで濃縮する手法である。ザルの目にあたる「細孔」や「目開き」によって、ろ過方法も異なる。10µm以上の粒径を持つ比較的大きな微細藻類は、スクリーンメッシュフィルターで分離できる。通常のスクリーンは数ミリメートルの目開きのものが多いが、近年では数マイクロメートルの目開きを持つものも販売されており、これらのスクリーンを用いることで微細藻類を分離出来ることが報告されている。近年スクリーンの目開きが小さなものも開発されているが、最も目開きが小さなもので5µmであり、このサイズを下回る微細藻類は一切分離出来ない。今後、さらに小さな目開きのスクリーンが開発されれば、微細藻類の分離に非常に有効なツールとなりうると期待する。

膜ろ過の可能性と課題

スクリーンよりさらに小さな孔を有するのが膜ろ過法である。膜ろ過法は薬品を注入することなく(液の性状を変化させることなく)、細孔によって精密に大小の溶質を篩い分けることが出来ることから、食品、医薬、上下水道の分野において盛んに導入されている。膜分離は濃度が薄いほど高い性能が発揮されることから、比較的濃度が薄い藻培養液のろ過に適している。また、藻細胞にとって有害となるAl等の無機成分を添加する必要がないことから、膜を透過した培地を再度培養に使用することも可能となる。膜を利用して大量の藻培養液を効率的にろ過・分離出来れば、安価な藻バイオ燃料生成プロセスを確立できるものと考える。現在、様々な孔径を持った膜が販売されているが、一般的に微細藻類の分離に用いられる膜は0.1µmから2.0µmの孔径を有するものが多い。また、膜材質も様々なものが開発されており、セラミックスのような無機膜とポリエチレンやテフロン系のような有機膜に大分される。さらには、膜もストロー状の形状でストロー表面からストローの中空部に向かってろ過をする「中空糸膜」や、紙状の「平膜」など、様々な形状の膜が存在する。これらの膜は、「モジュール」と呼ばれるケースに挿入されており、ろ過、洗浄、設置が簡単にできるように工夫されている。膜ろ過法の最大の課題として、微細藻類や有機物などが細孔に目詰まりすることで著しく透水性能が低減する「膜ファウリング」が挙げられる。膜ファウリングが発生すると、ザルが目詰まりした時と同様に、ろ過するために圧力を上げる必要があり、結果としてより多くのエネルギーが必要となり、コストの上昇につながる。このため、膜ろ過の導入するにあたっては、ファウリングの抑制が最も重要な課題となる。
我々の研究グループでは、屋外で大量培養したP. ellipsoideaから軽油もしくはジェット燃料を生産する一貫プロセスを確立すべく、特に、回収コスト低減を目指して研究を進めている。藻バイオ燃料の生産にあたっては、油脂抽出後の残渣は、家畜飼料として利用することを想定していることから、回収においては化学薬品の添加は不可であり、凝集・浮上分離は適用できない。また、遠心分離は高濃度に濃縮できる一方で、高い動力、大型化が困難、かつ維持管理が煩雑となることから、分離コストの大幅な低減は困難と考える。以上の背景から、我々の研究グループでは微細藻類の回収方法として膜ろ過プロセスに着目し、低コストかつ高濃度にP. ellipsoideaを回収する方法の開発に取り組んでいる。

微細藻類回収技術

低コストかつ高効率な回収技術の開発

我々の研究グループでは微細藻類の回収方法として膜ろ過プロセスに着目し、低コストかつ高濃度にP. ellipsoideaを回収する方法の開発に取り組んでいる。膜ろ過法の効率化には、溶液中に含まれる成分を正確に知った上で、膜ファウリングが発生しにくい膜の選択、膜の洗浄方法の確立が重要な課題となる。本研究では、P. ellipsoideaの培養液中に含まれる成分の特性を詳細に分析した後に、その成分に適合した膜選択および洗浄方法を開発した。さらに、ここで最適化したシステムの性能を実証した後に、提案したシステムによるコスト低減効果を検討する。


下水を使った培養技術とその利用

下水処理水中の資源を使って培養し、培養したものを利用する

近年の養殖業の盛りに伴って,魚粉価格が上昇傾向にある。魚粉のほとんどを輸入に依存する日本としては,魚粉に代わるタンパク質源の確保は,重要な課題となる。最近では,微細藻類を魚粉代替として利用する研究が進められている。昨年度までの研究により,本研究においても,微細藻類の高い生産性と魚粉に比する栄養価が実証されている。本研究では,微細藻類を下水処理水中で培養することで,養殖飼料の原料を生産するプロセスを確立するものである。下水中に含まれる窒素分を微細藻類に与えることでタンパク質に変換する新たな窒素循環を構築することを最終的な目的とする。
微細藻類の生産にあたっては,種の生産,本培養,回収プロセスを構築する必要がある。屋内で様々な水を用いて培養した結果,MBR処理水が最も培養に適することが明らかになった。また屋外でMBR処理水を用いた回分式培養の結果,微細藻類の年間生産量は1.16kg-藻/m2/年となることが明らかとなった。ここで生産した微細藻類は,有害金属濃度が飼料安全基準を下回り,タンパク質も魚粉と同程度含まれることが明らかとなった。
さらに,生産した微細藻類の提供先についても検討した。微細藻類をナマコに給餌することを考慮して、ナマコ業界について調査すると共に,ナマコ用に微細藻類を提供した場合の需給を予想した。